役員報酬を決めるとき、「交通費や通勤手当はどう扱えばいいのか」で手が止まる人は多いと思います。定期同額給与のルールがある以上、「役員報酬とは別に交通費を出したら定期同額を崩すのでは」という不安が出てくるのは自然です。
結論から言うと、通勤手当や実費の旅費交通費は、役員報酬(定期同額給与)とは別枠で出せます。ただし、ひとり社長ならではの落とし穴が1つあります。この記事ではその境界線を整理します。
この記事の前提
- 合同会社(マイクロ法人)のひとり社長。役員は私だけ
- 私自身は自宅作業中心で、通勤の実態がないケース
- 非課税限度額などの制度は毎年見直されるので、数字は必ず最新情報で確認してください
結論:通勤手当・実費交通費は役員報酬と別枠
定期同額給与のルールが縛っているのは、あくまで「毎月決まって支給する給与」の部分です。役員報酬をいくらにするかという話と、通勤手当・実費の旅費交通費は、税務上まったく別の話として扱われます。
通勤手当は一定の非課税限度額の範囲内であれば、給与所得に加算されず、社会保険料や所得税の計算対象にも含まれません(限度額を超えた部分は課税対象になります)。業務でかかった実費の交通費(取引先との打ち合わせの電車代など)も、そもそも給与ではなく経費なので、役員報酬の金額とは無関係に精算できます。
通勤手当の非課税限度額(一般論)
国税庁の「通勤手当の非課税限度額」によると、令和8年4月1日現在の制度では次のように定められています。
- 電車・バスのみを利用する場合:最も経済的かつ合理的な経路の運賃等が、1か月当たり15万円まで非課税(15万円を超える部分は課税)
- マイカー・自転車通勤の場合:片道の通勤距離に応じて非課税限度額が段階的に決まっています(例:片道2km未満は全額課税、2km以上10km未満は月4,200円、15km以上25km未満は月13,500円など、距離が伸びるほど限度額も上がる仕組み)
- 電車・バスと車を併用する場合:両方の金額を合算しますが、合計でも月15万円が上限
根拠は所得税法9条・所得税法施行令20条の2です。この限度額は制度改正で変わることがあるので、実際に通勤手当を設定する際は、その時点の国税庁の公式ページで最新の金額を確認してください。
業務の実費交通費は経費精算でOK、ただし記録を残す
通勤手当とは別に、打ち合わせや取引先訪問でかかった電車代・バス代・タクシー代などは、通常の業務経費として法人から精算できます。役員報酬の定期同額とは無関係なので、その月にたまたま外出が多くて交通費がかさんでも問題ありません。
ただし、税務調査で「これは本当に業務のための移動か」を聞かれたときに説明できるよう、いつ・どこへ・何のために移動したかの記録を残しておく必要があります。領収書やICカードの利用履歴だけでは目的が分からないので、簡単なメモ(訪問先・用件)を添えておくのが実務的です。私はひとりで経理を回しているので、これを怠ると後から自分で思い出せなくなるという、シンプルな理由からも記録を残すようにしています。
注意点:自宅兼オフィスのひとり社長に「通勤手当」は成立しない
ここが正直に書いておきたい部分です。通勤手当が非課税になるのは、あくまで「自宅から勤務先への通勤の実態がある」ことが前提です。自宅を本店・勤務場所にしていて、実際には自宅の外に出て通勤する実態がないなら、通勤手当という名目自体が成立しません。
これはマイクロ法人・ひとり社長でよくある勘違いだと思います。「役員報酬とは別に手当を出せるなら、通勤手当という名目で非課税の枠を使いたい」という発想が出てきても不思議ではありませんが、実態のない手当を作ると、給与として課税されるか、最悪の場合は経費性そのものを否認されるリスクがあります。非課税限度額はあくまで実態を伴う通勤に対する枠であって、節税の抜け道ではありません。
私の場合:通勤手当は使わず、業務の実費だけ経費にしている
私自身は自宅作業が中心で、通勤と呼べる実態がありません。なので通勤手当という名目は最初から使っていません。使っているのは、取引先との打ち合わせや所用で外出したときの実費の交通費だけです。金額としては大きくありませんが、業務との対応関係がはっきりしているぶん、変に非課税枠を気にするより気楽です。
「通勤手当を活用して手取りを増やせないか」と考えたくなる気持ちは分かりますが、実態のない手当を無理に作るより、法人の維持費や固定費の実額を正しく把握したうえで、必要な実費だけを淡々と経費にするほうが、結果的にシンプルで安全だというのが5年やってみた実感です。
まとめ
役員にも通勤手当や実費の旅費交通費は出せますし、どちらも役員報酬(定期同額給与)とは別枠で扱われます。ただし通勤手当は非課税限度額の範囲内であることに加えて、通勤の実態があることが前提です。自宅兼オフィスで通勤していないなら、その名目は使えません。私自身は通勤手当を使わず、業務でかかった実費の交通費だけを記録つきで経費にしています。役員報酬そのものの決め方は8万円台にしている理由の記事に、法人の固定費全体は維持費の実額公開記事にまとめています。
参考(公式情報): 国税庁タックスアンサーNo.2582「電車・バス通勤者の通勤手当」、国税庁タックスアンサーNo.2585「マイカー・自転車通勤者の通勤手当」(いずれも確認日2026-07-07)
※本記事は筆者個人の実績と2026年7月時点の公開情報に基づく一般的な情報提供であり、税務・法務の助言ではありません。通勤手当の非課税限度額は税制改正・年度により変わります。金額の設定や個別の判断にあたっては、その時点の国税庁の公式情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。