役員報酬を決めたはいいものの、「これ、いつなら変えられるんだろう」と後から気になった人が多いと思います。会社員の給料と違って、役員報酬は年に何回でも見直せるものではありません。結論から言うと、変更できるタイミングは原則として「事業年度が始まってから3ヶ月以内」の1回だけです。この記事では、なぜその時期に限られるのか、増額と減額でルールがどう違うのか、そして私自身が期首改定をどう使ったかを書きます。
この記事の前提
- 合同会社(マイクロ法人)のひとり社長。役員は私だけ
- 定期同額給与(毎月同額で払う通常の役員報酬)を前提にしています。事前確定届出給与など他の類型は扱いません
- 制度・通達の内容は国税庁タックスアンサーの公開情報(2026年7月時点)に基づいています
- 個別の改定が税務上どう扱われるかは会社ごとの事情で変わるため、実際の判断は税理士に相談することを前提にしています
結論:変更できるのは「期首から3ヶ月以内」の通常改定だけ
国税庁のタックスアンサー(定期同額給与)では、定期同額給与として損金算入が認められる改定について、「その事業年度開始の日の属する会計期間開始の日から3か月を経過する日までにされた定期給与の額の改定」という整理がされています。つまり、事業年度が始まった月から数えて3ヶ月以内に決議・改定した金額であれば、その期はその金額で「毎月同額」を通す限り定期同額給与として扱われる、ということです。
この3ヶ月ルールがあるからこそ、役員報酬は「決算のたびに翌期の金額を決め直す」ものだと理解しておく必要があります。期の途中、たとえば7ヶ月目に「今月から報酬を上げよう」と決めても、それは原則としてこの通常改定には当たりません。
期中の増額はなぜ避けたほうがいいのか
定期同額給与の定義は、「その事業年度の各支給時期における支給額が同額であるもの」です。この定義を素直に読むと、期の途中で報酬を上げてしまうと、増額前の金額と増額後の金額の2つが1つの事業年度に混在することになり、「各支給時期における支給額が同額」という条件そのものが崩れます。
そのため、期中に増額した場合は増額前の金額を超える部分(増額分)が定期同額給与の要件を満たさず、損金に算入できないという扱いになるのが一般的な整理です。会社としては増額後の金額を毎月支払っているのに、税務上は差額分がなかったことにされる、つまり「余計に法人税を払う」形になりかねないということです。「業績が良かったから今月から報酬を増やそう」という判断は、気持ちとしては自然でも、税務上は割に合わない選択になりやすいと覚えておいてください。
期中の減額はもっと限定的:「業績悪化改定事由」しか使えない
増額よりもさらにハードルが高いのが、期中の減額です。国税庁のタックスアンサーでは、通常改定(3ヶ月以内の改定)以外で認められる減額改定として「業績悪化改定事由」が定義されています。条文の整理では、「その事業年度においてその法人の経営状況が著しく悪化したことその他これに類する理由により」行った減額改定に限られる、とされています。
ここで重要なのは、この整理には明確な但し書きがあることです。国税庁の公開情報では、「一時的な資金繰りの都合や、単に業績目標値に達しなかったことなどはこれに含まれない」と明記されています。つまり「今月ちょっと厳しいから減らそう」「予算に届かなかったから減らそう」という理由では、この例外は使えません。想定されているのは、経営状況が客観的に見て著しく悪化した、もっと重い局面です。
私自身はこの業績悪化改定事由を使って減額をしたことは一度もありません。「使えるかもしれない例外」として覚えておくものであって、資金繰りが多少苦しいくらいで安易に頼っていい制度ではない、というのが実感です。売上が落ち込んだ月の対応は、未払計上という選択肢も含めてこちらの記事で整理しています。
実務ではどう回すのか:決算後に翌期の金額を期首で決める
ここまでの制約を踏まえると、実務上いちばん安全なのは「期中に慌てて変える」のではなく、「決算が締まったタイミングで、翌期の業績見込みをもとに、期首の3ヶ月以内に金額を決め直す」という型です。私も基本的にはこの型で運用しています。
- 決算で今期の実績(売上・利益)が確定する
- その数字と、個人事業側の所得・生活費の必要額を踏まえて、翌期の役員報酬額を検討する
- 事業年度開始から3ヶ月以内に金額を決定し、株主総会(合同会社なら社員総会)議事録・株主総会議事録に類する書類を作成して残す
- 決めた金額を、期中は理由があっても変えずに毎月払い続ける
この中で私が特に重視しているのは議事録を残すことです。ひとり社長で株主も自分だけだと、「決議した」という手続きを省略したくなりますが、税務調査で定期同額給与の要件を説明する場面では、いつ・どういう理由で・いくらに改定したかを書面で残しているかどうかが説得力に直結します。金額を決めた日と、その理由(業績見込み・個人の所得状況など)を簡単にでもメモしておくことをおすすめします。
私の場合:45,000円から87,999円への引き上げも期首改定でした
私自身、マイクロ法人を設立した当初は役員報酬を45,000円ラインに設定していました。その後、法人に利益が残りすぎる状態が続いたため、報酬を87,999円まで引き上げる判断をしていますが、この引き上げも期中に思いつきで行ったわけではなく、決算後に翌期の業績を見込んだうえで、期首の改定として行っています。詳しい時期はここでは書きませんが、「変えたいと思った月に変えた」のではなく、「変えられるタイミングまで待って変えた」という点だけは共通しています。87,999円という金額を選んだ理由そのものはこちらの記事にまとめています。
正直に言うと、設立当初の私はこの3ヶ月ルールを厳密には理解していませんでした。「儲かってきたら都度上げればいい」くらいに考えていた時期があり、そうではないと知ってからは、決算のタイミングをまたいで金額を見直す運用に切り替えています。
注意点・向かない人
「今期の業績が良かったから今すぐ報酬を増やしたい」という人には、この制度は向きません。反映できるのは来期の期首改定からです。また、業績悪化改定事由は経営状況が著しく悪化した場合の例外であって、単なる資金繰りの都合や目標未達では認められないと国税庁の公開情報にも明記されています。安易に頼らず、該当しそうなら税理士に相談してください。
もう一つ、ひとり社長だと省略しがちなのが議事録です。定期同額給与の要件を満たしていることを後から説明する材料は、結局のところ「いつ・いくらに決めたか」を示す書面しかありません。決算のたびに議事録を作る手間は惜しまないほうがいいと思います。
まとめ
役員報酬を変えられるのは、原則として事業年度開始から3ヶ月以内の通常改定だけです。期中の増額は増額分が損金不算入になりやすく、期中の減額も「経営状況が著しく悪化した」場合に限られる例外的なルートしかありません。安全に運用するなら、決算後に翌期の業績を見込んで期首に金額を決め、議事録を残すという型を守るのが現実的です。私自身、45,000円から87,999円への引き上げもこの型で行いました。金額そのものの考え方は役員報酬8万円台の記事で、資金繰りが厳しい月の対応は未払計上の記事で書いているので、あわせて読んでみてください。
参考(公式情報): 国税庁タックスアンサーNo.5211「役員に対する給与」(いずれも確認日2026-07-07)
※本記事は筆者個人の実績と2026年7月時点の公開情報(国税庁タックスアンサー等)に基づく一般的な情報提供であり、税務の個別助言ではありません。定期同額給与の改定要件や業績悪化改定事由の該当性は個別の事情によって判断が分かれるため、実際の改定にあたっては税理士にご相談ください。