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マイクロ法人の実務 会計・税金

役員報酬が払えない月、未払計上でどうなるか

シャチョー

ひとり社長ラボの筆者。2021年からマイクロ法人(合同会社)を運営する現役ひとり社長。個人事業との二刀流を、実額と実録で記録しています。

売上が細って、今月の役員報酬が正直払えるか怪しい。そんな月を想像して検索してきた人が多いと思います。マイクロ法人の社長は、社員と違って「自分の給料を止める・遅らせる」という選択肢が実質的に手元にあります。だからこそ、それをやったときに税務・社会保険のどこに影響が出るのかを、払う前に知っておきたいはずです。

先に正直に書いておくと、私自身はマイクロ法人を運営して以来、役員報酬を未払いにしたことは一度もありません。この記事は体験談ではなく、売上が落ち込んだときに備えて自分でも制度を調べておきたくて整理した内容です。断定できない論点は断定せず、一次資料で確認できた範囲とできなかった範囲を分けて書きます。

この記事の前提

  • 合同会社(マイクロ法人)のひとり社長を想定。役員は自分だけ
  • 東京・協会けんぽを前提に社会保険部分を書いています
  • 私自身に役員報酬の未払い経験はなく、国税庁・日本年金機構の公開情報をもとにした一般的な整理です
  • 個別の資金繰り状況によって最適な対応は変わるため、実際に未払いを検討する段階では税理士に相談することを前提にしています

役員報酬を払えない月があると、何が起きるのか

役員報酬は「毎月同額を払い続ける」のが大原則です(定期同額給与)。これは以前の記事でも書きましたが、資金繰りが厳しいからといって金額を変えたり支払いを飛ばしたりすると、税務上の扱いが崩れるリスクがあります。

ただ、選択肢は「払う」か「(何もせず)払わない」の二択ではありません。実務でよく使われるのが、実際の現金支給はせず、会社の帳簿上で「未払金」として計上しておくという方法です。役員報酬を「発生させたが、まだ支払っていない」状態にして、資金ショートを避けるやり方です。

「未払計上」は定期同額給与の扱いを崩さないのか

ここが一番気になるところだと思うので、一次資料で確認できた範囲を先に書きます。国税庁のタックスアンサー(定期同額給与)によれば、定期同額給与とは「その支給時期が1か月以下の一定の期間ごとである給与で、その事業年度の各支給時期における支給額(またはそこから源泉税等を控除した金額)が同額であるもの」と定義されています。

この定義は「支給額が毎月同額かどうか」を問うもので、「現金で実際に払われたかどうか」を問うものではありません。つまり資金繰りの都合で振込を止めていても、各月の支給額(未払金として計上する金額)が一貫して同額であれば、定期同額給与となり得る——ただし、帳簿に同額を記録すればよいという話ではありません。支給日と金額が実際に確定していて、法人に支払債務が発生しており、支払う意思のない仮装計上ではないことが前提です。「払えないから今月だけ0円にする」のは減額改定に当たる可能性がありますが、「金額は確定させたまま支払いだけ後ろ倒しにする」のとは話が別、ということです。

とはいえ、ここは条文の文言から読み取れる一般的な解釈で、税務署や税理士に個別確認をとった話ではありません。未払いが数ヶ月にわたる、金額が変動するといったケースでは損金算入が否認されるリスクもゼロとは言えないので、未払計上を始める前に必ず税理士に相談してください。この記事はそのための土台の整理だと思ってください。

未払でも社会保険料・源泉所得税はどうなるのか

源泉所得税:原則は「支払の際」に徴収

国税庁のタックスアンサーでは、給与の源泉徴収について「給与などの支払をする場合には、その支払の都度、支払金額に応じた所得税および復興特別所得税を差し引く」という整理がされています。つまり源泉徴収義務は、原則として「実際に支払った時点」で発生する仕組みです。

ここから素直に考えると、役員報酬を未払金として計上したまま実際には支払っていない月は、その時点では源泉徴収も発生しない(徴収して納付する原資自体がまだ動いていない)という理屈になります。未払分を後日まとめて実際に支払った月に、その支払額に応じた源泉徴収を行う、という流れが一般的な実務整理です。ただしこれは「支払時課税」という原則から組み立てた整理で、未払いが長期化した場合の細かい取り扱い(みなし支給認定のリスクなど)まで国税庁の一次資料で明確に確認できたわけではありません。ここも判断が割れうる部分なので、税理士に確認することをおすすめします。

もうひとつ、見落とされがちな後半の処理があります。年末調整では、未払いの給与もその年の給与総額に含めて計算します。そして源泉徴収票には、未払額と徴収未済の税額を内書きして記載する決まりです(出典: 国税庁タックスアンサーNo.2526「その年に支払の確定した給与」、確認日2026-07-07)。「払っていないから年末調整にも入れない」は誤りなので、未払いのまま年を越す場合はここを必ず押さえてください。

社会保険料:こちらは慎重に

社会保険料(健康保険・厚生年金)については、標準報酬月額という「報酬の見込み額」に基づいて保険料が決まる仕組みで、源泉所得税のような「支払時点で課税」というシンプルな整理がそのまま当てはまるとは限りません。日本年金機構の公開情報だけでは、未払計上が続いた場合の標準報酬月額・保険料徴収への影響を私は断定できませんでした。

実務上は、未払いが続いても会社側の保険料納付義務だけは残り続ける可能性があります(標準報酬月額は決定済みの額で走り続けるため)。なお随時改定(月額変更届)は固定的賃金の「変動」が前提の制度なので、単なる支払いの遅延はそもそも別の論点です。ここは推測で書けるレベルを超えているので断定はしません。未払いを検討する段階で、必ず年金事務所か社会保険労務士に確認してください。社会保険料の実額の内訳はこちらの記事にまとめています。

未払いが長期化しそうなら「減額改定」も選択肢

未払金をずっと積み上げていくやり方には限界があります。未払金は会社にとって「役員への負債」として帳簿に残り続けますし、いずれ資金繰りが戻ったときにまとめて支払う原資が必要になります。売上の落ち込みが一時的でなく構造的だと分かった時点では、報酬そのものを引き下げる「減額改定」を検討すべき局面です。

ここで重要な制約があります。国税庁の法人税基本通達では、定期同額給与の減額改定が認められるのは「その事業年度において法人の経営状況が著しく悪化したこと」などに限られており、単なる「一時的な資金繰りの都合」は認められないという整理がされています。「来月だけ厳しいから減額」は原則として通らない、ということです。

一方で、いつでも自由に改定できるわけではないものの、事業年度開始の日から3ヶ月を経過する日までに行う定期給与の改定であれば、定期同額給与の要件を満たす形で報酬額を変更できます。つまり「今期の業績が厳しかったので、来期の期首(3ヶ月以内)から報酬を下げる」という決め方が、制度上もっとも素直なルートです。未払いが長引きそうだと感じたら、その場しのぎで未払金を積み増し続けるのではなく、次の期首改定のタイミングを見据えて金額そのものを見直す、という発想の切り替えが必要だと思います。

注意してほしいこと・向かない人

この記事は「未払計上すれば安心」という話では全くありません。むしろ逆で、未払金は将来支払わなければならない負債であり、資金繰りの問題そのものを解決する手段ではないという点は誤解しないでください。

また、私自身がこの処理を実際にやったことがないという点はもう一度強調しておきます。未払計上や損金算入の可否、社会保険料の扱いは、条文・タックスアンサーの一般的な読み方を整理したにすぎず、個別の事情(未払いの期間、金額、他の役員の有無など)で結論が変わりうる領域です。資金繰りが厳しくなった場合は、この記事を出発点にしつつ必ず税理士・社会保険労務士に個別相談してください。

あわせて、そもそも役員報酬をどのラインに設定しておくかで、こうした事態への耐性も変わってきます。設定の考え方はこちらの記事で、社会保険料の実額はこちらの記事で書いているので、あわせて読んでみてください。

まとめ

役員報酬が払えない月があっても、金額を確定させたまま未払金として計上する方法自体は、定期同額給与となり得ます。ただし未払計上だけで保証されるわけではなく、支給の確定・債務の実在・仮装でないことが前提条件です。ただし源泉所得税や社会保険料の扱い、そして未払いが長期化した場合の減額改定のルールには、断定しきれない・専門家の判断が必要な部分がいくつもあります。私自身は幸い未払いにしたことがありませんが、売上が細ったときのために、払う前に制度を知っておくことには意味があると思っています。

参考(公式情報): 国税庁タックスアンサーNo.5211「役員に対する給与」国税庁タックスアンサーNo.2526「給与が一部未払の場合の源泉徴収」(いずれも確認日2026-07-07)

※本記事は筆者個人の知識と2026年7月時点の公開情報(国税庁タックスアンサー・法人税基本通達等)に基づく一般的な情報提供であり、税務・社会保険の個別助言ではありません。筆者自身に役員報酬の未払い経験はなく、実務での判断・適用にあたっては税理士・社会保険労務士等の専門家にご相談ください。

  • この記事を書いた人

シャチョー

ひとり社長ラボの筆者。2021年からマイクロ法人(合同会社)を運営する現役ひとり社長。個人事業との二刀流を、実額と実録で記録しています。

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