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マイクロ法人の実務 会計・税金

役員報酬0円は可能か|社会保険に入れなくなる落とし穴と、私が0円にしない理由

シャチョー

ひとり社長ラボの筆者。2021年からマイクロ法人(合同会社)を運営する現役ひとり社長。個人事業との二刀流を、実額と実録で記録しています。

マイクロ法人の役員報酬をゼロにすれば、社会保険料も所得税もかからないのでは、と考えたことがある人は多いと思います。実際、法律上は役員報酬を0円にすること自体は可能です。決め方は会社の自由で、株主総会(合同会社なら社員の決定)で決めればそれで済みます。

ただ、結論から言うとマイクロ法人二刀流の文脈で役員報酬を0円にするのは、多くの場合いちばんやってはいけない選択です。理由は税金うんぬんより先に、社会保険に加入できなくなるという一点に尽きます。この記事では、なぜ0円だと社保に入れないのか、逆にどんな人なら0円が合理的なのか、そしてマイクロ法人ではいくらにすべきかを、私自身が最低ラインの実額を運用している立場から整理します。

この記事の前提

  • 私自身は役員報酬を0円に設定した経験はありません。現在は87,999円で運用しています(理由は後述の記事に詳しく書いています)
  • 合同会社(マイクロ法人)のひとり社長。東京・協会けんぽ・40歳未満(介護保険料なし)
  • 社会保険や税金の適用判断は個別事情で変わります。断定できない部分は、必ず年金事務所・税務署・専門家に確認してください

役員報酬0円は法的に可能。ただし決め方には手続きがいる

役員報酬の金額は、株主総会や社員総会の決議で自由に決められます。0円という決定も有効です。会社が赤字続きで報酬を出す余力がない場合や、事業がまだ立ち上がっていない場合に、役員報酬をいったん0円にするのは実務上もよくある話です。

ただし役員報酬は「定期同額給与」が原則なので、事業年度の途中で気分で変更することはできません。変更できるタイミングは基本的に事業年度開始から3ヶ月以内に限られます。0円にするかどうかも、この縛りの中で決める必要があります。

最大の落とし穴:報酬0円だと社会保険に加入できない

ここがこの記事でいちばん伝えたいことです。マイクロ法人二刀流の目的の多くは「法人の社会保険に加入して、国民健康保険・国民年金より有利な条件で社会保険に入る」ことにあります。ところが役員報酬を0円にすると、この目的そのものが成立しなくなります。

日本年金機構が公開している適用事業所・被保険者の説明では、被保険者となる要件を次のように説明しています。

厚生年金保険に加入している会社、工場、商店、船舶などの適用事業所に常用的に使用される70歳未満の方は、国籍や性別、年金の受給の有無にかかわらず、厚生年金保険の被保険者となります。

(常用的使用関係とは)雇用契約書の有無などとは関係なく、適用事業所で働き、労務の対償として給与や賃金を受ける使用関係をいいます。

ポイントは「労務の対償として給与や賃金を受ける」という部分です。被保険者資格は、報酬を受け取っている実態があってはじめて成立する仕組みになっています。この考え方のもとになっているのが、法人の役員は労務の対償として報酬を受けている者について被保険者資格を取得させる、とする古い厚生省通知(昭和24年7月28日)です。裏を返せば、報酬を受け取っていなければこの要件を満たさず、被保険者資格そのものが認められないのが原則ということになります。

つまり役員報酬を0円にすると、その法人経由では健康保険・厚生年金に加入できず、あなたは国民健康保険・国民年金に入るしかなくなります。マイクロ法人を作った動機が「社会保険料を法人経由で抑えたいから」だったなら、報酬0円はその動機を自分で無効化してしまう選択です。

なお、いったん報酬ありで社会保険に加入したあとに報酬を0円へ変更した場合は、資格の継続・喪失が実態から総合的に判断されるとされており、単純に「0円にした瞬間に自動で切り替わる」という話でもありません。この境界は個別判断の要素が強いので、実際に0円への変更を検討する際は、必ず事前に年金事務所へ相談してください。

0円が合理的なケースと、二刀流では絶対にやってはいけない理由

0円が合理的なケース:本業の社保がすでにある人

役員報酬0円が合理的になるのは、典型的には会社員が副業でマイクロ法人を持っているケースです。本業の会社の社会保険にすでに加入しているなら、副業法人側で無理に社会保険に入る必要がありません。この場合、法人を維持するコストだけを最小化する目的で役員報酬を0円にするのは筋が通った判断です。社会保険料の二重負担を避けられますし、副業法人の赤字経営を続けやすくなります。

二刀流では絶対にやってはいけない理由

一方、個人事業(フリーランス)と自分のマイクロ法人だけで二刀流をしていて、他に社会保険の入り先がない人が役員報酬を0円にすると、行き先は国民健康保険・国民年金だけになります。これは多くの人にとって、法人を作る前より保険料が高くつく結果になりかねません。国民健康保険料は前年の所得に連動して上がっていく仕組みなので、個人事業の所得が大きい人ほど、マイクロ法人の社保に入れないダメージは大きくなります。

マイクロ法人二刀流の設計思想は「法人の社会保険に入ること」が土台になっています。その土台を役員報酬0円で自分から外してしまうと、法人を維持する固定費だけが残り、二刀流にした意味が消えます。「税金も社保もゼロにできるなら一番お得では」という発想は、社保という一番大事な部分を見落としています。

では最低いくらにすべきか

私自身は、マイクロ法人の役員報酬を87,999円に設定しています。0円ではなく、かといって高くもしていない、いわば「最低ライン」の実額です。理由は、厚生年金保険料の計算に使う標準報酬月額に88,000円という下限(第1等級)が設定されているためです。役員報酬をこの下限ぎりぎりまで下げても、それ以上下げても社会保険料はほとんど変わりません。だったら下限の1円手前に設定して、下限の恩恵を受けながら、当時の基準で源泉所得税が非課税になるラインも同時に満たす、というのが私の考え方です。金額の理由や当時と現行の制度差はこちらの記事に詳しく書いています。

重要なのは「0円よりは、社保に入れる最低ラインの方が結果的に手取りも保険の保障も安定する」という考え方です。標準報酬月額の下限は毎年度見直される可能性があるので、実際に金額を決める際は、その年の日本年金機構の標準報酬月額表を必ず確認してください。私が実際に運用している社会保険料の実額(健保・厚年の内訳)はこちらの記事で公開しています。

住民税・所得税の観点:0円でも法人の固定費は消えない

役員報酬を0円にすれば、あなた個人の所得税・住民税(所得割)はかかりません。所得がゼロになるので当然です。ただし、法人自体にかかるコストは0円にしても消えません。

代表的なのが法人住民税の均等割です。均等割は法人の所得が赤字であっても、事業所を置いているだけで課税される仕組みで、自治体や資本金規模によって金額は変わりますが、資本金1,000万円以下・従業員50人以下の小規模法人であっても、最低でも年間数万円程度は発生するのが一般的です。正確な金額は都道府県・市区町村ごとに異なるので、自分の自治体の均等割額は必ず公式サイトで確認してください。

つまり役員報酬を0円にしても、法人を維持する限り「均等割+会計や税理士などの事務コスト」は毎年かかり続けます。役員報酬0円は個人の税負担をゼロにはできますが、法人の維持費用そのものをゼロにはできない、という点は分けて考える必要があります。維持費の実額の全体感は、別の記事で公開しています。

まとめ:0円は「なし」ではないが、二刀流の目的とは相性が悪い

役員報酬0円は法律上は問題なく決められますが、それによって法人経由の社会保険に加入できなくなる点が、マイクロ法人二刀流にとっては致命的です。本業の社会保険をすでに持っている副業法人なら0円は合理的な選択になり得ますが、個人事業とマイクロ法人だけで二刀流をしている場合は、社保に入れる最低ラインを探る方が理にかなっています。金額を決める判断基準や、実際に払っている社会保険料の内訳をもっと具体的に知りたい方は、あわせてこちらの記事もどうぞ。

【2026年3月の厚生労働省通知について】 2026年3月18日、厚労省は法人役員の社会保険の被保険者資格について、「役員としての業務が法人経営への参画を内容とする経常的な労務の提供であること」「報酬がその対価として経常的に支払われていること」を総合的に判断すると明確化しました(出典: 厚生労働省「法人の役員である個人事業主等に係る被保険者資格の取扱いについて」、確認日2026-07-07)。直接の対象は他者の法人に形式的に役員として加入する「国保逃れ」スキームですが、自分で設立したマイクロ法人でも実態のある業務と、それに見合う報酬が前提になる点は同じです。形だけの法人・実態のない役員就任では社会保険に加入できません。

参考(公式情報): 日本年金機構「適用事業所と被保険者・被扶養者」厚生労働省「法人の役員である個人事業主等に係る被保険者資格の取扱いについて」(いずれも確認日2026-07-07)

※本記事は筆者個人の記録と2026年7月時点の公開情報に基づく一般的な情報提供であり、税務・社会保険の個別助言ではありません。被保険者資格の要件や標準報酬月額、法人住民税均等割の基準は制度改正・自治体により変わります。具体的な判断は年金事務所・税理士・社会保険労務士等の専門家にご相談ください。

  • この記事を書いた人

シャチョー

ひとり社長ラボの筆者。2021年からマイクロ法人(合同会社)を運営する現役ひとり社長。個人事業との二刀流を、実額と実録で記録しています。

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