「マイクロ法人」で検索すると、税理士法人や会計ソフト会社の解説がずらりと並びます。どれも正確ですが、読み終わっても「で、自分はどうすればいいのか」が残る。私もそうでした。
このページは、2021年に合同会社を作って5年運営している私が、マイクロ法人とは何か・向く人・作り方・費用・設立後の実務を1本にまとめたものです。各論はこのブログの個別記事に実額つきで書いてあるので、ここは全体の地図として使ってください。
マイクロ法人とは:社員が自分ひとりの、拡大しない会社
法律用語ではありません。一般には「代表者ひとりで運営する、事業拡大を目的としない小さな法人」を指します。私の定義はもう少し具体的で、社会保険料と税金をコントロールするために、個人事業と並行して持つ会社です。
普通の会社との違いは目的です。普通の会社は売上を伸ばし、人を雇い、大きくなることを目指します。マイクロ法人は大きくしません。役員報酬を低めに固定して社会保険料を抑え、個人事業側の所得は国保に連動させない。この「二刀流」の構造を作ることが、作る理由のほぼすべてです。
個人事業主との違いは、法人化で所得税が法人税に変わるといった教科書的な話より、「毎月決まった役員報酬を払う」「赤字でも法人住民税7万円を払う」「決算と法人税申告をする」という義務が発生することのほうが実務上は大きいです。このあたりは後半で実額を出します。
【2026年3月の厚生労働省通知について】 2026年3月18日、厚労省は法人役員の社会保険の被保険者資格について、「役員としての業務が法人経営への参画を内容とする経常的な労務の提供であること」「報酬がその対価として経常的に支払われていること」を総合的に判断すると明確化しました(出典: 厚生労働省「法人の役員である個人事業主等に係る被保険者資格の取扱いについて」、確認日2026-07-07)。直接の対象は他者の法人に形式的に役員として加入する「国保逃れ」スキームですが、自分で設立したマイクロ法人でも実態のある業務と、それに見合う報酬が前提になる点は同じです。形だけの法人・実態のない役員就任では社会保険に加入できません。
向く人・向かない人:先に3つの物差しで確かめる
「作り方」の前に、作るべきかどうかです。私が5年やって、ここで間違えると後戻りが高くつくと思っている物差しは3つあります。
| 物差し | 向く | 向かない |
|---|---|---|
| 削減額 vs 維持費 | 社会保険料の削減額が年16万円前後の維持費をはっきり上回る | 個人事業の所得がまだ少なく、国保も高くない |
| 事業の切り分け | 法人に置く事業と個人に残す事業を、実態として別に説明できる | 同じ仕事を形だけ分けて所得を付け替えたい |
| 事務の継続 | 毎月の記帳と納付、年1回の申告を5年続ける想定が持てる | 期限のある事務が苦手、書類仕事を先送りしがち |
1つ目は数字で確かめられます。社会保険料シミュレーターに個人事業の所得を入れると、国保+国民年金と、マイクロ法人の社保+維持費の差が出ます。2つ目は事業の選び方に、3つ目は5年やって後悔したことに、それぞれ私の実例を書きました。
法人化の時期そのものに迷っている人は、「利益800万円から」だけでは見誤る3つの物差しも合わせて読んでください。マイクロ法人は「法人成り」とは判断の軸が違います。
マイクロ法人の作り方:7ステップ(実額つき)
私は知識ゼロの状態から、freee会社設立を使って自分で合同会社を作りました(その実録はこちら)。設立代行に頼まなくても、順番さえ分かっていれば自力で終わります。
ステップ1:法人に置く事業を決める
最初にやるのは登記ではなく、ここです。法人側に「実態のある事業」がないと、社会保険にも入れませんし、税務上も危うい。私の場合は取引先との業務委託契約を法人側に置き、それ以外の活動を個人に残しました。「月数万円の安定した収入が見込める仕事」が法人側にあれば成立します。
ステップ2:会社の形と基本事項を決める
マイクロ法人なら合同会社一択です。株式会社は登録免許税だけで最低15万円、さらに定款認証の費用がかかるのに対し、合同会社は登録免許税最低6万円で定款認証も不要。ひとり会社に株式会社の機能(株式の発行・株主総会)は使い道がありません。
決めるのは、商号(会社名)、本店所在地、資本金、事業目的、決算月、代表者です。本店所在地は自宅でもよいのですが、登記簿は誰でも取得できるので住所が公開されます。私はバーチャルオフィスを使いました。事業目的はステップ1で決めた事業を書けば足ります。資本金は1円からでも作れますが、口座開設の審査などを考えると無理に最小にする必要もありません。
ステップ3:定款を作る(電子定款で印紙代4万円を浮かせる)
定款は会社のルールブックで、登記に必須です。紙で作ると収入印紙4万円が必要ですが、電子定款なら不要。freee会社設立やマネーフォワード会社設立のような無料ツールは、入力した内容から電子定款を作ってくれます(両者の比較はこちら)。私はここで自力で書類を作る手間を丸ごと省きました。
ステップ4:資本金を払い込む
法人口座はまだ存在しないので、代表者個人の口座に資本金額を振り込み、通帳のコピー(表紙・口座情報・振込のページ)を払込証明として使います。振込人名義が自分になっていれば問題ありません。
ステップ5:法務局に登記を申請する(合同会社で約6.5万円)
登記申請書・定款・払込証明・代表者の印鑑証明などをそろえて、本店所在地を管轄する法務局に申請します。費用の大半は登録免許税の6万円で、法人実印などを合わせて私は約6.5万円で済みました(設立費用の内訳と、削れるもの・削れないもの)。登記が完了した日が会社の設立日になります。
ステップ6:税務署・自治体・年金事務所に届け出る
登記が終わっても、まだ終わりではありません。税務署には法人設立届出書・青色申告の承認申請書・給与支払事務所の開設届出書・源泉所得税の納期の特例の申請書、都道府県税事務所と市区町村には法人設立届、年金事務所には健康保険・厚生年金の新規適用届と資格取得届。窓口がバラバラで、私が一番消耗したのはここです。期限つきのものもあるので、届出チェックリストを手元に置いて進めてください。
ステップ7:法人口座・会計ソフト・役員報酬を決める
設立直後の法人は審査に落ちます。私はゆうちょと楽天に落ち、住信SBIとGMOあおぞらで開設できました。2〜3行に同時に申し込むのが正解です。会計ソフトはfreee会計を5年使った結論を書きましたが、マイクロ法人の記帳は月数件なので最安プランで足ります。
そして役員報酬。ここがマイクロ法人の設計の核心で、一度決めたら原則1年間は変えられません(定期同額給与)。私は87,999円にしていて、その理由と変更できるタイミングは別記事に書きました。
費用:設立時に約6.5万円、毎年約16万円
| 時期 | 項目 | 私の実額 |
|---|---|---|
| 設立時 | 登録免許税(合同会社) | 60,000円 |
| 設立時 | 法人実印など | 数千円 |
| 毎年 | 法人住民税の均等割 | 70,000円 |
| 毎年 | 会計ソフト(freee会計+freee申告) | 72,116円 |
| 毎年 | バーチャルオフィス | 約22,000円 |
| 毎月 | 社会保険料(役員報酬87,999円のケース) | 約25,100円 |
「維持費は均等割の7万円だけ」という説明をよく見ますが、現実には会計ソフトと登記住所で倍以上になります。維持費の内訳と、削れる項目・削れない項目に詳しく書きました。社会保険料は維持費ではなく「個人事業主時代の国保+国民年金と置き換わるもの」なので、比較の仕方は社会保険料の実額記事を見てください。
設立後の実務:年間カレンダー
作った後に何をするのか。税理士なしで5年回している私の年間業務はこうです。
| 時期 | やること | 実感 |
|---|---|---|
| 毎月 | 記帳(月数件)、役員報酬の振込、社会保険料の納付 | 口座振替にすれば数分 |
| 7月 | 算定基礎届の提出 | 簡単 |
| 7月・1月 | 源泉所得税の納付(納期の特例で年2回) | 簡単。事前申請が必要 |
| 1月 | 年末調整、法定調書の提出 | 初年度は面倒 |
| 決算後2ヶ月以内 | 決算・法人税の申告 | 最難関。会計ソフトの申告機能で乗り切った |
1年目は初見の作業が続いて丸一日溶けた日もありましたが、2年目からは同じことの繰り返しで作業量は体感3分の1以下になりました。税理士なしで5年回した結論と、一番の落とし穴だった社会保険料の納付書が月末ギリギリに届く問題は別記事にあります。
まとめ:作る前に数字で確かめ、作るなら順番どおりに
- マイクロ法人は「大きくしない会社」。目的は社会保険料と税金のコントロールで、法人側に実態のある事業があることが前提
- 作るかどうかは削減額が年16万円前後の維持費を上回るかで決まる。シミュレーターで先に確かめる
- 作るなら合同会社。電子定款で印紙代を浮かせ、登記は約6.5万円。登記後の届出と役員報酬の決定までが「設立」
- 設立後は毎月の記帳と納付、年1回の申告。1年目だけが山で、2年目からは流れ作業になる
設立の書類作成は無料ツールで済みます。私が使ったfreee会社設立は、入力画面を眺めるだけでも「何を決めないといけないか」のチェックリストとして使えます。
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参考(公式情報): 国税庁「No.7191 登録免許税の税額表」 / 法務省「商業・法人登記」 / 国税庁「内国法人の設立の届出」 / 国税庁「No.5211 役員に対する給与(定期同額給与)」 / 日本年金機構(いずれも確認日2026-08-22)
※本記事は筆者個人の体験(2021年〜)と2026年8月時点の公開情報に基づく一般的な情報提供であり、税務・法務の助言ではありません。制度・料金は変わるため最新情報をご確認ください。個別の判断は税理士等の専門家にご相談ください。